臨床現場レポート|株式会社H + B ライフサイエンス情報誌 第9号2013年6月発行

取り戻した下着の快適さ
〜100人パンツで過ごしてる〜


(社会福祉法人 藤島会 特別養護老人ホーム藤島園 排泄委員会)

●特別養護老人ホーム藤島園の紹介

社会福祉法人藤島会は特別養護老人ホームをはじめ、ケアハウス、グループホーム、デイサービス、保育園など10の事業を行っています。藤島会の施設理念は、職員の資質向上に努める事、専門性を高め、サービスの向上を図る事、報告、連絡、相談を密にし、チーム力を高める事です。藤島会では「乳幼児から高齢者までの総合福祉」をモットーに地域の方々の支援をしていくことを目指しています。 また、25年には定期巡回随時対応型訪問看護と、地域密着型介護老人福祉施設の開設を予定しており、施設だけではなく、在宅介護の拠点となるよう目指しています。

◆フロアの紹介◆

フロア別の入所定員の内訳は右記の表の通りです。男性利用者は23名、女性利用者は82名です。4つのフロアで構成されており、フロア毎に平均介護度にも差が出ています。施設全体では4.2、経管栄養者は約3割を占めています。職員の配置も利用者数に合わせて行っており、全体ではご利用者2.3名に対して介護職員は1名となっています。


(平成22年6月現在)

●布パンツでの排泄ケアとの出会い

当施設での排泄ケアについてですが、平成4年の開設時は、布オムツとオムツカバーでのケアでした。平成14年頃から、主に紙オムツと紙パンツに変わりましたが、下痢の続く方や常に下剤を使用する方には布オムツで対応していました。

ところが平成17年、ある施設へ見学に行き、そこで初めて布パンツでの排泄ケアに出会いました。

高齢者になっても私達と同じ布パンツで毎日を過ごすことができる。園でもなんとか取り組みをしたいという強い思いを抱いて帰ってきました。そして、他の職員からも「パンツで過ごして頂きたい!」「何とか出来ないのか?」という声が出始めた平成19年、全国老人福祉施設協議会主催の介護力向上講習会(利用者の自立支援を柱とした研修会)に参加することになりました。私たちはこの講習会の「ご利用者の自立支援」の考え方に共感し、さっそく園でも取り組みを行うことになりました。

●パットの見直し

「利用者の自立支援」の実現に向けて、1日の水分摂取量を食事での摂取以外で1200〜1500ccに増やし、歩行器歩行での運動、トイレでの座位排便の促進、食事形態のUPに取り組んでいます。

利用者は動く度にあてているパットがずれて失禁が生じることもありました。尿漏れを防ぐために使用するパットも次第に大きなものを使うようになり、ご利用者に違和感を与えるようになりました。また、コストアップへも繋がっていきました。そこで、その打開策として既存の排泄委員会メンバーを4名から10名に増やして、ご利用者一人ひとりをアセスメントしながら現在の状態を把握し、個別ケアに取り組みました。尿量測定を3日間一斉に実施し、ご利用者に合った使用パットや排泄時間を決めました。

◆生み出された新たな時間◆


(この表は、Aさんの1日の排泄表の変化です。)

平成19年頃は、夜間3回の交換を含めた1日6回の交換で、ご利用者の身体的・精神的負担は大きいものがありました。尿量測定の実施により排泄パターンを把握し、パットの交換時間や種類の見直しを行うことで、夜間の安眠の提供につながりました。日中はレクレーションや個別機能訓練を通して活動量が倍になり、身体を動かすことで水分量も増え、食事も食べて頂けるようになりました。

現在生み出された新たな時間は(指さし部分)日中の業務への準備や個別機能訓練に当てています。居室や衣類の整理整頓にも目が行き届くようになりました。

●下剤に頼らない排泄ケア

当施設で常時下剤を使用している方は多く、下剤使用による下痢便(水様便)の為、布パンツでの生活が困難な方が多い現状でした。そこで、平成21年には排泄委員会の次のステップとして、排便サポートの取り組みに力を入れました。「下剤に頼らない自然排便」を全員で共有し、サポート対象者を各フロアより数名ずつ挙げて取り組んでいきました。毎月経過報告を行い、評価やアドバイスをもとに改善を図り成果を上げています。

◆取組み例◆

【例A】 以前は朝夕2錠の下剤服用

⇒現在は朝夕1錠と乳糖果糖オリゴ糖(7g)、ヨーグルトの提供で自然排便。便意も復活。

【例B】 以前は下剤未使用でも決まった時間の水様便

⇒栄養剤の変更、乳糖果糖オリゴ糖の増量(14g)、提供時間の変更で有形軟便にまで改善。

【例C】 以前は下剤未使用でも決まった時間の水様便

⇒食物繊維、乳糖果糖オリゴ糖の中止、整腸剤、下痢止めの服用中止、栄養剤の変更。肺炎による毎日の抗生剤服用の為か、下痢は治らず。

まずAさんは、朝夕に下剤(カマ)を2錠ずつ飲まれており、水分摂取の徹底、乳糖果糖オリゴ糖シロップ(7g)とヨーグルトの提供により便意が復活し、下剤は1錠ずつに減り、自然排便が見られています。

Bさんは経管栄養者で下剤は未使用でしたが、決まった時間に水様便が続いていました。そこで、乳糖果糖オリゴ糖シロップの増量(7g⇒14g)と提供時間の変更、栄養剤の変更により、有形軟便にまで改善しています。

しかし、Bさんと同じような状態のCさんは下痢が止まらず、原因を探る為に一旦、乳糖果糖オリゴ糖シロップ、食物繊維の使用を中止、栄養剤の変更も試みましたが、抗生剤を服用しており、未だ下痢の全面的な改善には至っておりません。
これまでにも何度も食物繊維やオリゴ糖、乳酸菌等、整腸効果の期待できる食品の使用は試みてきましたが、あまり効果を感じることはできませんでした。しかし、水分摂取量の徹底と運動量の増加だけでも便通改善が見られた方がいました。また、水分摂取量及び運動量の増加に伴い、乳糖果糖オリゴ糖、他の食品を取り入れた際の効果も高まったように感じられました。

排便サポートに取り組んでいく中で、全てが成功に結び付くわけではありませんが、大切なのは施設として一人ひとりの排泄の課題に向き合っていくことだと実感しています。

これらの取り組みが実を結び、当施設では平成23年9月に「日中オムツ着用率ゼロ」を達成することができました。さらに25年1月には、日中・夜間ともに「オムツ着用率ゼロ」を達成し、「高齢者となっても私たちと同じ布パンツで毎日を過ごして頂きたい」という目標に向け大きく前進することができました。


(日中おむつゼロ達成を記念して送られた表彰状)

●職員の感想

◎オムツ着用率ゼロは、ご利用者の自立支援を目指していく中で一つの過程にしか過ぎない。
◎布パンツの使用により尿意、便意が取り戻せ、ポータブルトイレやトイレでの排泄が増えた。
◎傾眠傾向の方の覚醒時間が増える等の認知症の改善が見られた。
◎寝たきりの方も下着で過ごすことで皮膚のトラブルがなくなり、また、オムツを使わない事はご利用者の尊厳を守ることになった。

これに満足することなく、最も基本である水分摂取量や運動量を増やし、次のステップである「全員の常食化」に向けて取組んでいきます。そして更なるご利用者の自立支援に向けて邁進して参ります。

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