臨床現場レポート|株式会社H + B ライフサイエンス情報誌 第6号2011年12月発行

オリゴ糖シロップ摂取による排便コントロール
~下剤に頼らない排便を目指して~


(医療法人杏和会阪南病院 山本紀久世 看護師)

●はじめに

高齢者は加齢に伴い、防衛力、予備力、適応力、回復力の4つの力が低下し、バランスの崩れた状態となっています。このことから高齢者の多くは排泄障害を起こしやすくなっており、加齢による運動量の低下、身体的な消化機能の低下、水分摂取量の不足、腹筋力の低下、排便反射の減弱、歯牙の欠損、食事内容の偏り、ストレスなど、多くの要因がかかわっています。

加えて、当病棟は精神科老人病棟であり、抗精神病薬や抗パーキンソン剤を長年にわたり服用しているために、排便困難な状態となる患者様が多く見られます。

一般的に、便秘の解消法には、排泄リズムの確立や運動、十分な水分や食物繊維の摂取がよいとされていますが、当病棟の患者様は身体的、精神的にも障害があり、寝たきり、車椅子での生活が中心となっているため、一般的な解消法は現実的に困難な状態にあります。そのため、下剤の使用、グリセリン浣腸、摘便などによる排便コントロールが日常的に行われています。

これらのコントロールを長期で行うと、結腸粘膜の知覚を鈍麻させ、排便反射が消失します。また、下剤の連用で腸管神経の変性を起こす危険性があるので、下剤や浣腸に頼らない、できる限り患者様の苦痛が少ない排便コントロールを目指したいと考えました。

そこで、少量で使いやすく、患者様の負担とならない方法で摂取できるオリゴ糖シロップを用いての排便コントロールを試みました。

●研究の概要

研究目的:オリゴ糖シロップ摂取により自然排便を促すことで、排便回数や浣腸回数、下剤使用回数の低減が可能かを検討する。

調査期間:4カ月間。

研究対象:病棟入院中の患者様5名(男性2名、女性3名)、平均年齢73.4歳、浣腸、下剤常用。

倫理的配慮:対象者様、ご家族には口頭、文章で研究目的、治療上や社会的不利益にならないことを説明し、同意をいただく。

用語の定義:オリゴ糖シロップ=乳糖果糖オリゴ糖

●具体的な研究方法

  1. 第1期はオリゴ糖シロップ非摂取期間として、30日間の排便回数、浣腸回数、ラキソベロン液使用回数を排便チェック表に記録する。
  2. 第2期、第3期はオリゴ糖シロップ摂取期間とし、60日間、毎日10時の水分補給にスプーン1杯(7ml)のオリゴ糖シロップを混ぜ、溶かしたお茶を飲用してもらう。
  3. 第2期、第3期のオリゴ糖シロップ摂取期間(60日間)の排便回数、浣腸回数、ラキソベロン液使用回数を排便チェック表に記録する。
  4. 第4期はオリゴ糖シロップ非摂取期間として、30日間の排便回数、浣腸回数、ラキソベロン液使用回数を排便チェック表に記録する。
  5. オリゴ糖シロップ非摂取期間と摂取期間で記録した排便回数、浣腸回数、ラキソベロン液使用回数とを比較する。
  6. すべての期間中、便の形状についても記録し、比較する。
  7. すべての期間内において、定期薬のうち下剤やラキソベロン液使用は通常通りとする。

●結果 

排便回数、ラキソベロン液使用回数、浣腸回数を月別に比較した結果を下図に示しました。

患者様5名の個人別、月別の便の形状、排便回数、ラキソベロン液使用回数、グリセリン浣腸(GE)施行回数の推移は表1~表5の通りです。

●考察

高齢者の便秘の特徴は、加齢による生理的変化、食生活の変化、腸管壁の強さの変化、排便時の腹圧低下、直腸壁の弾力低下などがあり、便秘が生じやすくなっています。そのため、高齢者の排便コントロールは必然的なケアとなっており、ラキソベロン液、グリセリン浣腸に頼っているのが現状です。

そこで今回の研究では、下剤に頼らない排便コントロールの方法として、オリゴ糖シロップによるコントロールを試みました。その結果が図1のグラフです。オリゴ糖シロップ摂取期間における排便回数を見ると、10月は増加、11月は減少、非摂取期間の12月は増加しています。

乳糖果糖オリゴ糖は腸内のビフィズス菌を増加させ、刺激することで腸蠕動運動を活発化させる作用があります。このため、高齢者の便秘の特徴である結腸の蠕動運動の低下に働きかけて上記のような変化をもたらしたと考えられます。また非摂取期の12月の増加の原因はオリゴ糖シロップの持続性ととらえることができます。

また、排便の回数増加に伴い、ラキソベロン液使用回数は減少、グリセリン浣腸施行回数は、10月、11月は増えましたが12月には減少しています。これもオリゴ糖シロップ摂取の効果がもたらした結果と考えられます。

個人別では、A、B、C、D氏については排便回数の増加が見られました。しかし、各氏それぞれ回数の増加の割合には違いがあり、それぞれの活動量や、抗精神病薬服用の度合いによって、個人差が生じたものと考えます。

特に、排便回数の変化が一番大きいC氏は、活動量が他の4名の方に比べて多く、食事の摂取量も安定しています。抗精神病薬も現在は服用していません。そのため、今回の研究では、最もオリゴ糖シロップの効果が顕著に出たと考えられます。

E氏については、非摂取期の9月の排便回数が今までの月に比べて極端に増加し、逆にオリゴ糖シロップ摂取期の排便回数は減少となっています。これは、9月に下痢状態が続いて排便回数が増えたためで、その後、摂取期に入ると下痢が改善し、10月、11月は9月の排便回数より減少しました。オリゴ糖の整腸作用によるものと考えられます。

便の形状の変化は、個人的にばらつきがあるものの、オリゴ糖シロップ摂取期間は、下痢でもなく便秘でもない便の性状の理想形である半練状、バナナ状の有形便に移行しています。乳糖果糖オリゴ糖がビフィズス菌を増加させ、整腸作用が働いたことで、無形便から有形便へと変化したものと考えます。

今回の研究は5名の方が対象でしたが、病棟の患者様のほとんどが自己での排便コントロールは難しい状態にあり、排便コントロールは看護者により行われていました。しかし、オリゴ糖シロップは多忙な業務の中でもお茶に混ぜるだけで摂取していただけることから、すべての患者様対象に行うことが可能であり、患者様の苦痛を伴わない排便コントロールの方法として、有効であると考えます。

●まとめ

  1. 下剤に頼らない排便コントロールの方法として、オリゴ糖シロップは有効である。
  2. 下痢の改善の目的においても、オリゴ糖シロップの継続使用は必要である。

●おわりに

今回の結果から、オリゴ糖シロップの便秘に対する有効性は確認できました。しかし、5名の対象者様すべてにまんべんなく有効であったわけではなく、個人差が認められました。

松生が高齢者の便秘の治療について「ただやみくもに結腸刺激性の下剤を投与するだけでは、便秘の根本的改善には至らない」*と述べているように、下剤の投与のみの排便コントロールではなく、高齢者個人の特徴と患者の負担にならない方法を考えた排便コントロールが必要であると考えます。

今までは、排便が3日なければ下剤、4日なければグリセリン浣腸という方法での排便コントロールを当たり前のように行っていました。しかし、今回の研究を通して、下剤や浣腸に頼らず、患者様に負担の少ない排便コントロールの方法を見出せたことは、患者様の苦痛をできるだけ減らすケアとは何か、ということを見直すよい経験となりました。

*臨床老年看護第13巻第5号,2006.

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