臨床現場レポート|株式会社H + B ライフサイエンス情報誌 第6号2011年12月発行

腹部観察の大切さ ~お腹はこころのバロメーター~


(財団法人浅香山病院 堀江真美 看護師)

●はじめに 

腹部観察をテーマに挙げた動機として、3つの理由があります。

1つ目は、精神科領域で最も多く見られるシビアな疾患の1つとしてイレウスがあります。これは抗精神病薬の副作用です。

2つ目は、精神科の患者様は痛みの閾値が高いという点です。通常なら痛みを感じる状態であっても普通に過ごされていることがあります。そのような患者様が痛みを訴えたとき、すでに重篤な状態になっているというのは珍しいケースではありません。

3つ目は、自分のことをうまく表現できない患者様が多いということです。精神科看護では、精神症状の悪化の背景に、身体の問題が関係していることも少なくありません。

これら3つの点から、身体観察する力が求められていると考えました。患者様は何らかの体の不具合や違和感があっても、その状態をうまく医療者に伝えられないがゆえに、精神症状の変化として表面に現れる場合が少なくないと考えられるからです。

今回の観察の場となった当院B館3階は、慢性期の閉鎖病棟です。長期に抗精神病薬を飲んでいる患者様が多くいらっしゃいます。

具体的に患者様の状態を紹介します。こちらのグラフはクロルプロマジン換算量(CP値)とイレウスについて表したものです。このCP値というのは、陽性症状のものさしといわれるもので、抗精神病薬の強さを換算するものです。換算量が多いほど、イレウスのリスクは高くなります。慢性期では、一般的にこのCP値の1日量は600~800㎎といわれていますが、B3の患者様の大半はそれ以上です。1500㎎以上になると明らかにイレウスを起こしやすくなるといわれ、大変危険な状態です。

こちらはB3の患者様のCP換算値のグラフで、66%が800㎎を超えていました。多くの患者様がイレウスのリスクを抱えていることがわかります。

抗精神病薬の副作用から便秘になり、大量の便やガスが大腸の中にある状態が続くことで、腸はゴム風船に空気を入れたときのように徐々に膨らんでいきます。下剤や浣腸で排泄されれば元の大きさに戻りますが、ゴム風船を何度も膨らませたり空気を抜いたりしていると、ゴムが伸びて縮みが弱くなるように、腸も便秘と改善を繰り返しているうちに柔軟性を失い、伸び切った状態になります。

正常な腸の蠕動運動で便を送ることができない状態になってしまったものが巨大結腸と呼ばれるものです。精神科での頑固な便秘やイレウスといわれる病態のほとんどは、この巨大結腸症から進行したものです。

●研究の概要

具体的な方法に入ります。まず、腹囲測定や触診・聴診などの腹部観察です。毎日の検温時など、半数の患者様にさせていただいていますが、患者様によっては1日3~4検の方もおられるので、適宜、気になった患者様のお腹を触らせてもらうことにしています。

次に、排便を促すために行うのが、ホットパック、腹部マッサージです。

ホットパックはヤコビー線を中心に腰背部に当てると効果的なようです。腰背部の血流が増し、腸管の動きを促進して便秘や腹部膨満感の解消に有効になります。

マッサージですが、通常、腹部マッサージにかける負荷は約3kgといわれています。しかし、体重計で実験してみた結果、ほんの少し触れただけで3kgに到達してしまいました。これではお腹をなでるくらいしかできないので、現状は3~4倍、約10kg前後の負荷をかけてマッサージを行っています。

腹部にガス貯留が見られる方には排気を行います。チューブを入れるだけではガスが抜けない場合、マッサージで外から力を加えてガスを送るようにお腹を動かしながら排気を行っています。

そして、浣腸です。これらの処置をして腹部状態が改善しなければ食事量の調整をします。

最後に下剤です。便秘=下剤ではなく、下剤も量を増やせばよいというものではありません。下剤の長期大量服用が便秘をつくるともいわれています。それは、腸内の善玉菌も一緒に流れてしまうと考えられているからです。

また、患者様自身に行ってもらうこととして、運動の指導も行っています。具体的には、おやつの前に体操を取り入れています。

●オリゴワンヨーグルトサワーの導入 

さらに、腸内環境を整えるため取り入れたのがHプラスBライフサイエンスの「オリゴワン ヨーグルトサワー」です。オリゴワン ヨーグルトサワーを使用しての経過について報告いたします。

事例1(A氏)

ベースの下剤でガスター1錠、プレセニド3錠、ヨーデル3錠、マグラックス6錠、漢方薬を内服。排便コントロールが難しく、適宜浣腸と毎日のピコスル内服で調整していました。

腹囲の変動も大きく、最大11.5㎝の差がありました。ピコスル10~50滴で調整していましたが、50滴の内服や浣腸でも全く排便がないときもあれば、10滴で下着を汚してしまうこともありました。

患者様本人は、下着を汚した経験から「水便ばっかり出るからイヤ」と、下剤を拒否されることもありました。

オリゴワン ヨーグルトサワーを使用して1カ月した頃より腹囲の差が7㎝内外に収まり、下剤の調整量にも変化が出てきました。2カ月を過ぎてからは腹囲の変動は5㎝差、ピコスルも大体20滴ぐらいまでで適宜可能になりました。便の性状にも変化が表れ、ご本人の反応も「水様便ばかり」から「水様便はたまに」と変化があり、下剤に対する拒否も見られなくなって、下剤調節も安定してきました。

事例2(B氏)

ベースでヨーデル5錠内服されていて、腹部変動9㎝差でピコスルは50滴内服されていました。オリゴワン ヨーグルトサワーを使用して1カ月より腹囲変動幅の減少、最大腹部自体の減少が見られました。

2カ月経つと、ピコスルの服用量が減り、腹囲変動幅の減少、最大腹部自体の減少が見られました。3カ月よりピコスルは16滴になり、使用前より明らかに腹囲が下がりました。

数値的な変化も大きいのですが、便秘になりにくくなって浣腸の利用回数が2~3カ月に1度と各段に減ったことで、患者様本人からも「自分で便のコントロールができるようになった」と喜ばれました。

オリゴワン ヨーグルトサワーを使用したからといって、同じような効果がすべての方に見られるわけでなく、個人差はあるでしょうが、あらゆる選択肢の1つとして試す価値はあると思います。ただ、1本約120円とコストもかかるため、患者様やご家族にはきちんと説明し、提案する必要があります。

●結果

  1. こうしたケアを毎日提供する中で、患者様自身がご自分の体のことを医療者に教えてくれるようになりました。腹囲測定を拒否していた患者様が、観察の必要性を伝え続けたことで測定に応じてくれるようになりました。腹鳴を聴診する理由を聞いてこられる方や、便の性状や量からご自分で下剤のコントロールを考えられる方など、患者様自身が体のケアに関心を持たれるようになりました。
  2. 毎日、腹部を観察し続けたことで、重篤な症状に至る前に腹部疾患を早期発見することができました。

●まとめ 

私たちも患者様も、「食べる」という行為は人間としての楽しみの1つだと思います。特に、長期療養の患者様は薬の副作用で慢性的な便秘など、腹部状態がよくない方が少なくありません。そのせいで思う存分食べられないという現実の中でも、本来の食事の意義である「おいしく・楽しく」食べていただきたいものです。そのためには、腹部観察・ケアは欠かせないものだと考えます。

また、それらの実践を通して、患者様自身にもケアの必要性を理解していただき、共に体を大切にできるようかかわることができれば、素敵なことだと思います。

私たちの今後の課題は、身体観察のプロフェッショナルになることです。

動機にも挙げたように、精神科の患者様はうまく自己表現ができなかったり、痛みの閾値が高いという特徴があり、こちらからの密な観察が本当に重要です。

しかし、腹部観察のみに必死になって、患者様自身を見つめることを忘れてはいけません。「腹部マッサージするだけ」「排便チェックするだけ」「下剤コントロールするだけ」など、事務的な実践になってはいないでしょうか。そういったことから、だんだん患者様を新鮮な気持ちで見つめることができなくなり、些細な変化に気づきにくくなって、大きなミスにつながることもあります。私自身、腹部観察の頻度の高さに余裕がなくなり、事務的な対応になってしまった経験がありました。

ケアを通して患者様の心に寄り添うには、自分自身が主体的になって看護の楽しみを見つけ、あらゆる工夫を考え、学習すること。患者様とのかかわりの中で、常にそのことを忘れないことが大切です。

日々の些細な患者様の変化を敏感に感じ取れるような看護師であることが大切だと感じています。同じ過ちを繰り返さないため、私たちは新たに気持ちを引き締め、日々奮闘しています。

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