臨床現場レポート|株式会社H + B ライフサイエンス情報誌 第1号2010年5月発行

私のオリゴ糞闘記
臨床現場からの便秘対策


(新阿武山病院 栄養・給食室長 井戸由美子先生)

●はじめに

野生の動物は便秘をしないといわれます。そのことを考えると、人類は文明の発達とともに「便秘」という大きな宿題をもらったような気がします。

運動不足、食物繊維の不足など、便秘の原因はいろいろありますが、病気を治療するために飲む薬の副作用で便秘を起こすことも少なくありません。

特に、当院のような精神科では、抗精神病薬や抗パーキンソン薬や抗うつ剤の副作用(抗コリン作用)により、便秘で困っている患者様が多いのです。

便秘になると、お腹が張って苦しくなります。停滞した糞便によって腸管が無理やり押し広げられ、腸管の筋肉(平滑筋)の断裂が起こると、巨大結腸になります。それを避ける目的で長期に下剤や浣腸を用いると、結腸粘膜の知覚が鈍麻して排便の反射機能が起こりにくくなり、ひどい場合は麻痺性イレウスを引き起こす場合もあります。

また、アントラキノン系の刺激性下剤(センナ、大黄など)は、大腸黒皮症(メラノーシス コリ)などの有害な腸機能障害をきたす危険性もあるといわれています。

このようなことを踏まえると、やはり便秘治療には下剤投与に頼るのではなく、腸内環境を整えることが重要になると思います。

●研究の概要

高齢者の便秘は、腹部膨満感や嘔吐・イレウスなどを起こしやすく、経口で食事が摂れなくなると、栄養状態の低下を招く恐れがあるため、便秘対策は非常に重要です。

ヒトでの経口摂取において、摂取期間中、糞便ビフィズス菌群占有率が上昇し、排便状態改善効果が報告されているのが「ラクトスクロース(以下、LS)」です。

LSは、1日当たり2~3 g程度の摂取量で効果が期待でき、さらに下痢を起こしにくいという特長があります。

こうした点から多種あるオリゴ糖の中でも安全性が高いと判断し、便秘で苦しむ当院の患者様に投与してみることにしました。

調査方法:当院の認知症病棟入院中の患者様たち(n=20/平均年齢76.6歳)に、LS 3gを麦茶150㏄に溶かし、日常の水分補給時に飲用してもらいました。

調査期間:平成20年4月22日から4週間を非摂取期とし、その後、LSを飲用して2カ月後の4週間と、1年後の4週間、2回に分けて効果を調べました。

●結果

排便回数は、2カ月後のときには有意な増加は見られませんでしたが、1年後には有意な増加が認められました。

ただし、当院ではイレウス防止のため排便回数の確保を進めており、排便の頻度だけでLS投与の効果を判断することはできず、下剤や浣腸の使用が減少したか否かをみる必要がありました。

1年後に排便回数が増加した時点で、定期下剤の減量が示唆されました。(図1)

LS摂取期の方においては、臨時滴下下剤の使用量が有意に減少し、2カ月後はほぼ6割程度になり、1年後には半分以下に減りました。(図2)

浣腸の回数も、LS摂取により2カ月後は約半数に減少し、1年後はさらに有意に減少を示しました。(図3)

下剤や浣腸の使用時にみられる便の付着回数が減り、便の性状に改善がみられ、便量も中量の患者様が1年後には有意に増加しました。 (図4)

また、LS使用の手応えについて病棟スタッフにアンケートをとったところ、70%以上が「効果があった」と回答、病棟スタッフの評価はかなり良好でした。

●下痢にも効果あり 

また、長期入院者の多い精神科一般病棟の患者様(n=47/平均年齢59. 6歳)において、昼食時に3gのLSを飲用する調査を16週間にわたって行いました。

結果は、LS摂取により排便回数が増加し、臨時滴下下剤の使用量は減少しました。特に、排便回数の内容では、便秘傾向であった方はLS摂取により排便回数が増え、下痢傾向であった方は排便回数が減る、という傾向が見られました。

これらの結果から、LS摂取により腸内環境の改善に期待ができると考え、ペグなど経腸栄養で下痢が続いている患者様に使用してみたところ、2、3日目から有形便に改善されました。

現在、精神科病棟ではスタッフの了解のもと、コップ1杯でLS 3gが摂取できるお茶を用意し、ご自分の排便状態を考慮しながら自由に飲む形でコントロールしていただいています。費用は現在のところ、栄養課の持ち出しになりますが、LSは安価なので食材費の中で工夫することができる範囲です。

患者様の排便状態の改善は、浣腸や下剤投与、おむつ交換といったスタッフの作業の軽減につながりました。しかし、何よりも患者様のQOLの向上に貢献できたことが非常にうれしく、また意味のあることだったと感じています。

臨床現場レポート目次に戻る

 

  • 臨床現場リポート
  • 学会・展示会情報
  • 資料ダウンロード
  • 医療トップに戻る
  • ●オンラインショップ
  • お問い合わせ
  • サイトトップに戻る